ガミラス艦隊の二隻のガイペロン級航宙母艦では、慌ただしく艦載機の発艦準備が行われていた。戦闘機隊と攻撃機隊の航宙機が飛行甲板に上げられ、パイロットたちは、発艦準備が整ったことを甲板員に合図した。
 ガミラス艦隊司令のザグレスは、その報告を受けて命じた。
「戦闘機隊、全機発艦! 続いて、攻撃機隊も全機発艦させろ!」
 ガイペロン級の二隻の母艦から、勢いよく艦載機が次々に飛び立って行く。艦載機は、前方の上方で僚機が集結するのを待ち、多数の機体が一箇所に集まっていた。
「全機発艦しました!」
 その報で、ザグレスは次の指示を出した。
「諸君! ボラー連邦とガルマン帝国艦隊に、我がガミラス艦隊の能力を存分に見せつけてやろう!」
 ザグレスの乗るガイデロール級戦艦の艦橋では、乗組員が歓喜して気合を入れている。
「やってやろうぜ、みんな!」
「ガトランティスなど、恐るるに足りず!」
 ザグレスは、血気盛んな乗組員の様子を見て、にやりと笑った。
「ゲルバデス級空母は前に出ろ。瞬間物質移送器を使う! 艦載機を、ガルマン帝国艦隊を追撃している敵の駆逐艦艦隊の側面に出せ! 直ちに実行!」
 ザグレスが乗るガイデロール級戦艦の横にいた、ゲルバデス級戦闘航宙母艦は、エンジンを始動して、艦載機を発艦させたガイペロン級空母の近くに移動した。
 そして、艦首に搭載した瞬間物質移送器が、すぐに唸りを上げて、飛び立った艦載機のいる座標に向けて、位相空間を作り出した。艦載機は、その空間の歪みに捕らえられ、一機、また一機と消えていった。
 その最中、ザグレスは次の指示を出した。
「続いて、駆逐艦二十隻からなる突撃隊は前へ!」
 艦隊側面を守っていた駆逐艦艦隊は、その号令で直ちに前進して突撃隊として陣形を組んだ。
「諸君らは、小ワープでカラクルム級戦艦の懐まで接近し、これを、残らず撃沈してもらう。他の艦には目もくれるな! ガミラス艦隊の勇猛さを見せる時は今だ! 発進!」
 その命令を受け、ガミラス艦隊の高速駆逐艦艦隊は、一斉にエンジン全開で飛び出していった。そして、しばらく進み、ワープ可能速度に達した所で、次々にワープして行った。
「よし、準備は整った! 我々も出るぞ。地球艦隊を防衛する駆逐艦を一部残して、全艦、突撃!」
 その指示により、残りのガミラス艦隊も、一斉にエンジンに点火して、速度を上げて前進した。
 
 山南は、それを見守ってから、全艦に発令した。
「我々は、戦況を見て加勢する。今は、いつ、どこからガトランティスの増援が来ても良いように、周囲の警戒を続けろ」
 山南は、通信マイクを切ると、スクリーンに映るガミラス艦隊の後ろ姿を見守った。
「頼むぜ……」
 
 ガルマン帝国艦隊の逃げ遅れた艦は、今や隊列を崩してガトランティスの駆逐艦からの追撃に逃げ惑っていた。ガトランティスの駆逐艦は、複数の艦で相手の一隻を取り囲み、回転砲塔から撃ち出されるビームを放っていた。撃たれたガルマン帝国の艦艇は、側面に多数の穴を開けられ、稲妻のような光を放って艦体の一部が爆発した。
「こっ、このままでは……!」
 その時、突然、ガトランティスの駆逐艦の回転砲塔が爆発した。そうしているうちに、図ったようにミサイルが飛び込み、砲塔やミサイル発射管が破壊されてしまった。
 ガルマン帝国の艦艇の艦橋の両脇を、ガミラスの艦上攻撃機スヌーカが、編隊を組んで通り過ぎて行く。
「見ろ! ガミラス軍が助けに来てくれたぞ!」
 瞬間物質移送器で送り出した攻撃機隊と、戦闘機隊は、ワープで次々にその空間に現れていた。その数、百五十機ほど。
 その百機以上の機体が、編隊を組んで翼を傾けて、それぞれガトランティスの駆逐艦へと襲いかかった。
 放たれたミサイルは、その場にいたガトランティスの駆逐艦に次々に命中し、あっと言う間に航行不能に陥った。そして、戦闘機隊は、果敢に駆逐艦に接近を試み、艦橋に機関砲の雨を叩き込んだ。
 そうしている間に、ものの数分で、ガトランティスの駆逐艦は、ほとんどの艦が航行不能になるか撃沈し、形勢は逆転した。
 そして、ガルマン帝国艦隊のすぐそばを、ザグレス率いるガミラス艦隊が、高速で通過して行った。ガトランティス艦隊の本隊を叩く為だ。
 残ったガトランティス駆逐艦が敗走を始めたのを見たガルマン帝国艦隊司令のダゴンは、急に息を吹き返し、自軍の艦隊へ指示をした。
「全艦、この隙に艦隊の隊形を立て直すぞ!」
 同じく、ボラー連邦バース星防衛艦隊司令のラムも、指令を発した。
「チャンスだ! 我々も、ガミラス艦隊の後に続け!」
 
 その頃、先行したガミラス駆逐艦艦隊は、小ワープから抜け、ガトランティス艦隊のど真ん中に飛び出していた。そして、すぐさま複数の隊列を組むと、物凄い勢いで、高速で艦隊の間を縫って行く。
 駆逐艦艦隊を率いる艦隊の少佐は、艦隊を鼓舞する為に叫んだ。
「目標、敵の大型戦艦! 他には目もくれるな!」
 ガトランティス艦隊の指揮官テーダー大佐は、慌てて艦隊に指示を出す。
「何をやっているか! 迎撃しろ!」
「無理です! この密集隊形のままでは、味方に当たります!」
「馬鹿な……! ならば、艦隊の隊形を変更しろ! 艦の間を離すんだ!」
 テーダーは、憎々しげにレーダーで捉えたガミラス艦隊の様子を見つめた。
 そうして手をこまねいている間に、ガミラス駆逐艦艦隊は、一発も発砲することなく、まっしぐらに、目標である十隻のカラクルム級戦艦に接近した。
「目標まで、あと十秒! 各艦、砲撃用意!」
 駆逐艦艦隊の砲が回転し、側面にその砲門を向けた。
 そして、舷側に至近距離まで接近すると、高速で通過しながら、遂に陽電子砲による砲撃を開始した。
 ピンク色のビームは、カラクルム級戦艦の側面に命中し、移動に伴ってその硬い装甲を横なぐりにえぐって行く。そして、後続艦も同じように砲撃を加え、更にその後続艦も襲いかかった。
 対するカラクルム級戦艦は、至近距離を高速で移動するガミラス駆逐艦に狙いをつけることが出来ず、まったくの無防備な状態だった。そして、その硬い装甲は遂に破られ、側面から大きな爆発を起こした。
 後ろを振り返ることも無く、通過したガミラス駆逐艦艦隊は、隊列を乱さず、次のカラクルム級戦艦へと向かって行った。
 激しい砲撃の嵐が続き、気が付いた時には、すべての、カラクルム級戦艦は、大破して戦闘不能の状態に陥っていた。
 ようやく艦隊の隊列を変更したガトランティス艦隊は、ガミラス駆逐艦へと砲撃を開始した。しかし、その駆逐艦艦隊は、大きな円を描いて反転すると、更に速度を上げて再び小ワープでその場から去って行った。
 その頃には、前方からガミラス艦隊とガルマン帝国艦隊、そしてボラー連邦艦隊がまっしぐらに自軍の方へと向かって来るのがレーダーで捉えられていた。
 テーダー少佐は、悔しそうに怒鳴り声を上げた。
「まだ、我々にはメダルーサ級の火焔直撃砲がある! 砲撃用意! 奴らを血祭りにしろ!」
 メダルーサ級戦艦四隻は、急ぎ、砲撃準備を始めた。そして、横一列に並んだメダルーサ級は、一番艦から砲撃を開始した。
 
「重力震を探知! 右舷上方に火焔直撃砲弾来ます!」
 ザグレスのガイデロール級戦艦の科学士官は、大きな声で警告した。
 ザグレスは、マイクを掴んで艦隊に指示した。
「右舷上方の艦隊は、直ちに退避せよ!」
 ガミラス艦隊の駆逐艦と巡洋艦からなる右舷の艦艇は、側面のロケットを噴射して、指示された座標から急いで退避した。その真ん中を、火焔直撃砲の巨大なエネルギーが通過して行く。避け切れなかった一部の艦が、側面に被弾して、煙を吐き出しながら隊列を離れて行く。
「怯むな! 行けるぞ。機関、最大船速! 火焔直撃砲の出現座標の内側に入り込め!」
 ガミラス艦隊は、更に増速して最高速度でまっすぐにガトランティス艦隊の正面へと進んで行った。
 ガルマン帝国艦隊のダゴン司令は、その様子を呆気にとられてぽかんと眺めていた。
「な、何故だ? どうやってあれを避けたと言うのだ?」
 ボラー連邦バース星防衛艦隊司令のラムは、急いで科学士官に、火焔直撃砲のデータを分析させた。
「ガミラス軍が、どうして避けられたのか分かるか?」
「司令、申し訳ありません。時間が足りず、すぐには分かりません。しかし、何らかの方法で、発射の瞬間をセンサーで捉えて砲撃が跳躍してくる座標を掴んでいるのだと思います」
 ラムは、唇を噛んだ。ガミラス軍に教えを請うのは、彼のプライドが許さなかった。
「ガミラス艦隊の動きを観察し、後に続け!」
 
 こうして、遂に艦隊同士の砲撃戦が始まった。接近した双方の艦隊の陽電子砲ビームと、ミサイルが飛び交い、辺りは双方の艦が被弾した輝きで、暗い宇宙空間を眩しく照らしていた。
 もとより、艦隊の数で勝っていた多国籍軍の艦隊は、ようやくガトランティスに対して圧倒的に優勢な戦いを進めた。
 
 その頃山南は、レーダー手が掴んだ新たな情報に耳を傾けていた。
「長距離レーダーに感! 新手の艦隊が現れました。ガトランティスです!」
 山南は、鋭い口調でレーダー手に言った。
「スクリーンに出せ!」
 アンドロメダの天井スクリーンに、星図と共にレーダーで捉えた光点が映し出された。
「敵は、惑星の反対方向に現れました。おや……これを見てください!」
 ひときわ大きな光点を、レーダー手は指差した。
「恐らく……ゴルバだと思います。ゴルバ二隻が別々の座標から接近中!」
 山南は、バース星の月軌道の外側で繰り広げられている多国籍軍とガトランティスの艦隊の位置を確認した。
「今からこっちに戻るのは無理だな。この敵は、我々地球艦隊で対処する。艦隊を二手に分けるぞ。全艦、エンジン全開! 直ちにガトランティスが現れたそれぞれの座標へ向かえ!」
 アンドロメダの後部エンジンノズルから、勢いよく炎のような光が吹き出した。そして、その他の艦も、一斉にエンジンに点火し、その場から素早く離れて行った。
 山南は、通信マイクを掴んで、急いで艦隊に指示をした。
「主力戦艦ナガトとムツに、波動砲の発射用意を命ずる。大村艦長、それから井上艦長、直ちに準備してくれ!」
 スクリーンに映った二人の艦長は、山南の命令に敬礼して答えた。
「了解! 直ちに波動砲の発射準備を行います!」
 続いて、山南は南部にも指示をした。
「南部、全砲門をゴルバの周囲のガトランティスの通常艦に照準を合わせろ。他の艦と連動して、合図したら、砲撃開始だ」
 南部は、手袋をはめ直して、振り返って笑顔で山南に返答した。
「了解! 任せてください!」

続く…